駆動系
伝達系
等時性と姿勢差
   
   

















駆動系

ゼンマイを内部にかかえている香箱は、その穏やかな外見とはうらはらに、内部では激しいエネルギーの変化が起こっています。

このエネルギーは、ゼンマイに近くなるほどパーツに対して大きなストレスを発生させています。

ストレスを受けるパーツの中でも、香箱真とそれを受け止めている受け穴は筆頭です。

絶え間なく強い力で回り続ける香箱を支えている香箱真は、受け穴に激しい摩擦力を生じているので、これが長期間積み重なると、穴を広げていきます。

受け穴は香箱真の上下にありますが、この上下の受け穴にかかる力は均等ではありません。
主に香箱と2番かなとのかみ合い部分に生じているストレス、あるいは香箱の中のゼンマイが香箱内の壁に触れるなどして発生するエネルギーのむら、その他さまざま要素が重なって、上下の受け穴は、それぞれユニークな広がり具合になっていくのです。

各々の穴が広がっていくと、香箱真のセンターがずれはじめます。
そしてこのずれは、やがて香箱全体の傾きを生むことになるのです。

香箱が傾くと、香箱の一部が地板や受に接触するようになります。
香箱の一部が他のパーツに接触するようになると、駆動力にムラがでて、機械全体によからぬ影響を与えはじめます。

※注
自動巻きで巻き上げ効率のよい機械は、特にこの香箱の受け穴が減りやすいです。

これが香箱が生じるトラブルの1例です。

他には、香箱真のほぞの部分が長年の回転により減ったり、溝が刻み込まれたような傷を負うことがあります。
これも香箱真の回転に悪影響を与えることになり、ひいては機械全体に悪い影響を及ぼします。

また、2番歯車が長年の回転運動による力の影響や、金属疲労などが重なって曲ってしまい、それが香箱にすれる場合があります。これにより香箱の回転が阻害されます。

さて、このような症状を直すためにどのような修理がなされているのでしょうか。

まず、受け穴が減ってしまった場合は、穴を詰めます。
具体的にはタガネという棒のようなもので、強く穴をたたくことにより少しだけ穴をつぶし、その後に適切な大きさに広げなおします。広げる時には円形のヤスリ(リーマー)が使われます。

もちろん、受側と地板側の受け穴はセンター(中心線)を合わせておかなくてはいけません。

香箱真が無理なく回るかどうかを確かめながら、また、ゼンマイが不必要に香箱内に接触しないかどうか確かめるたりしながら、慎重な注意を払った作業が行われます。

そして、粘度の高い油やグリースが適切な位置に注油されます。

2番歯車が曲がっていた場合は、その曲がりを旋盤などを使用しながら直すか、あるいは新品の車に交換します。

このようにして駆動系の調整は行われていくのです。

ところで、話は少し脇道に外れますが、交換パーツが揃っているムーブメントはいざとなればパーツの交換が可能なので、ある意味では修理しやすいです。
これが、もうメーカーすら倒産してしまったようなアンティークウォッチだと、何がなんでも組み込まれているパーツに手を加えるか、他のムーブのパーツを無理矢理合わせるかという作業になるために極端に手間がかかります。
修理期間が長く、費用もかかってしまうのはこれが原因なのです。

よく、「機械時計は必要とあればパーツを作りますので長持ちします」とさりげなく言われることがありますが、あらゆる面で正常に機能する同形のパーツを一から作るのは大変に難しく、設備も整っていなくてはなりませんし、何よりも技術者の力量が厳しく問われます。

以上の観点から、今後、長期間にわたって使用できる時計をお探しでしたら、ムーブのパーツ供給のしっかりしたメーカーのものをお選びになることをおすすめします。


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