褐色時計の随筆

「バージウォッチ復元記」


いささか慣れない手つきだが、どうにか、やすりがけが見られるようになってきた。

苦節一ヶ月。

一年計画で、バージの復元に着手することになった。
なんとかの手習いではないが、 この歳で、切った、削ったの工作をするとは思わなかった!

そうは言いつつ、復元に無上の喜びを感じている自分に、最近、気が付いた。
月並みな言い方だか「物を作り出す喜びとはこういうことなのか・・・」と。

苦労もあるし、泣きもはいるが、まっとうした時の喜びは格別だ。
ここでバージについて、少し触れたいと思う。

正確にはバージ脱進機といい、火と水を使った以外の、人類最古の脱進機だそうで、17世紀から18世紀には、懐中時計の代表的な脱進機として、レバー脱進機に取って代わらるまで広く使われた。

期間は250年ぐらいで、フランスでは、シリンダー脱進機を使った薄型が広まっていくが、イギリスでは、19世紀の中頃まで残ったようだ。
ここでは「バージ=バージ脱進機を搭載した古典懐中時計」と読んでいただきたい。

私のパートナーは、Lu dgate Strtに住むThos Molsだ。
生まれは19世紀前半。
なぜか鬼が一匹、住みついている。

Thos Molsは、ひどく傷んでいた。
注意深く調べてみる。
欠損、紛失箇所は意外と多く、

☆ゼンマイ切れ
☆バレルとフュジーをチェーンでつなぐフックの紛失
☆モーションワークの紛失
☆時針、分針、秒針、文字盤、ケースの紛失

であった。

バージの部品は、手作業の部分が多く存在する。
規格品ではないので部品の流用は難しい。
探す手間を考えたら、作った方がはやいだろう。
バージ初心者は、まず、やすりがけの練習から始めなければならない。
幸い、パーツ止めに使う真鍮製のくさびは、良い練習材料と言えそうだ。
すぐになくすので、多く作っておくにこしたことはない。
それと、 ピンバイスが必要だ。

真鍮棒やスチール棒から、細かい部品を作ることが多いので、たいへん重宝する。
それと、気に入った平やすりと精密やすりを数本・・・
あとはキズ見も必要だ。

キズ見は時計師の必需品だ。
しかし慣れないと、たいへん疲れるものだ。
いいとこ2〜3時間が、集中できる限界だろう。

初心者は、気晴らし方を考える必要がある。
あとは、真鍮製のピンセットを必ず揃えよう。
バージの部品は、天輪とホゾを抜かせば、ほとんどが真鍮製である。
傷を付けないためにも、また、つまみ易さからも、真鍮製のピンセットは必需品である。

まず、切れたゼンマイから直さなくてはならない。
バレル軸に近い部分で切れていたのが幸いだ。
バージのゼンマイは、もちろんスチール製だが、幅が広いうえに、焼き入れがされているので、扱いには注意が必要だ。

バージのゼンマイは硬く強い。
バレルから抜く時もそうだが、入れる時も指を切らない注意が必要だ。
ゼンマイのバレル軸に近い部分を焼きなます。
やすりがけ、穴開けを容易にするためだ。

再度、焼き入れをする必要は無い。
なぜならここに、バネの弾力性は必要ないからだ。
後は、軸に沿うように、巻きグセを付けてやればよい。

次はフック作り。
形は釣り針を変形させたような物で、長さは5ミリぐらいで、厚みは1ミリも無い。
おまけに、バレル側のフックなので、複雑な形をしている。
スチール製で、ピンバイスにはさんで、精密やすりで気長に作る。

ここで一言・・・
形にまどわされてはいけない。
要は、フックをつかさどる爪が、しっかり作られていれば良いので、形は二の次で作ること。

機能を果たしていれば良い。
暇があれば完璧に作ってもよいが、完璧に作る最短の方法は、前者であることを言っておきたい。

完成したら、チェーンをつなぐ穴を開けて、最後に焼き入れ、焼き戻しを行う。
これを行わないと、チェーンに強い力が加わっているので、簡単に破損してしまう。

焼き入れ、焼き戻しだが、

☆焼き入れ 黄色→麦わら色→紫色→青色→濃い青色
☆焼き戻し 黄色→麦わら色→紫色→青色(ここで、すぐに水に入れる)

焼き入れは、たいへん硬くなるが、逆に、もろいので、粘り 強さを出すために、焼き戻しをする必要がある。
焼き戻しが 一番、難しい。

青色で焼き戻すと間に合わないので、紫色ぐらいで水に入れて良いようだ。
ぐずぐずしていると、おしゃかを作ることになる。
それと、焼き入れすると、きれいな青色をしているが、惜しまず、やすりで落とすこと。
焼き戻しの加減が分からないからだ。


by YAMAZAKI



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