SF時計小説 「パラダイス」


パラジソ使用者の証言

いやあ、パラジソ、随分話題になってるね。
そうそう、僕もパラジソ買ったんだよ。半年くらい使ってるかな。
値段は僕が買った時は80万クレジットだったけど、今は110万クレジットくらいになってると思うよ。

※注
この時期、金1グラムの価格は1400クレジットだった。

僕は、時計が好きでね、昔からね。
いろんな時計買ったなあ・・・。
始めはさ、ロレックスとかオメガとかね、集めてたよ。
それからパテックとかIWCに凝った。フランクやランゲも面白かったよ。
ミネルバやレマニアなんかにもかなりのめり込んだね。
新しいメーカーで面白いものもあるけどね、僕はどちらかというと昔のブランドが好きだな。
最近の時計だとBCSのEショックってのが面白いね。

でも、やっぱり時計は1990年代〜2000年代のものに限るね。
あの頃の機械時計は今のものより遥かに作りがしっかりしている。
今の機械時計ってさ、ほとんど振動数が12振動でしょ、駄目なんだよね、摩耗が早くてさ。
それに特に90年代ものって手作り感があるからね。
今ああいう手の込んだもの作るのは職人がいないから無理だろうな。

そういうわけで、僕としては時計はメニカルなものしか認められないんだけど、今度出たパラジソはちょっと面白いなと思ったんだ。
あれって、この前、ニューヨーク近代美術館に本体とソースコードが永久保存されることになったみたいだね。

パラジソを買ったいきさつはね、ほら、今映画で「ヒンデンブルグ号の沈没」ってのが流行ってるじゃない。
特にラストシーン、いいよね。
その映画見たら、主役の俳優のファンになってしまってね、で、彼がパラジソを愛用しているってことを知ったんだ。
早速AMSのショールームに見に行ったよ。
かっこいい時計だよね。
いくらですか?って値段聞いたらさ、80万って言われてさ、金なかったからエンタープライズ売ってさ、金作ったんだ。
買ったときはホントにうれしかったよ。

※注
エンタープライズ ーーー この時期人気のあったエレクトリックカーの名称

買ってからはもうこればっかりつけてるよ。
これ使ってると、何となく今まで集めてきた機械時計にも興味が薄れてきたんだよね。
不思議なんだけどね。
この時計のパーツのソースコードはずっと保存されるからね。
いつまでも修理可能なんだけど、何ていうのかな、今までソースコードにこれほど愛着を感じることなんてなかったんだけど、この時計買ってから考え方が変わったよ。

まあ、この時計の理論とかの難しいことは他の人が説明してくれるだろうけど、一人の時計マニアとして言うと、この時計は「感情をかきたてる」ものがあるね。
いやあ、まったく素晴らしい。


つづく。


※注
ヒンデンブルグ号の沈没 −−− 西暦2011年2月14日に全世界で封切りされた娯楽大作映画
スターバックス配給の空前の大ヒット作になった。

映画「ヒンデンブルグ号の沈没」のテーマ音楽「パラノイア」wav-file 1407kb




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パラジソを買った青年の証言!
謎は深まるばかり。
そんなに人を引き付けるのは一体なぜ?
次回、いよいよパラジソの全貌が明らかになる!
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