![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() ![]() |
![]() |
![]() |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
![]() |
「男と女」
「でもね、僕は、誰がこの時計を持っていたかは気にならない。 「まぁ、時計が主語なのね。 そう言われると、この時計がどんな時を過ごしてきたのか、気になるわね。」 「私が生まれるずっと前の時間をこの時計は知っているのね。」 しばらくして彼女はふと、こう呟いた。 「どこから始まったかもわからないよ。」 僕はそう答えた。 「それもそうね。いったい時間ってなにものなのかしら。」 「僕も、時間の流れがわからなくなって、しまいには、自分がどこにいるのかもわからなくなって、叫びたくなることがある。 彼女は、黙ったまま時計を見つめている。 静かな休日の午後、やさしく流れる今の「時間」を、その褐色時計は、かすかな音をたてながら、緩やかに、そして、しっかりと刻んでいた。 |