褐色時計の随筆
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「古時計とエレベータと私」

今、私の目の前に1つの古時計があります。
18世紀末にロンドンのNortonさんという時計師が製作されたものです。
今日は、この時計にまつわるささやかなエピソードにお付き合い下さいね。。

さて、はじまり、はじまり。

ある冬の寒い日のことでした。
行きなれたなじみのお店でコーヒーとお菓子を食べながら暖をとっていると、店長様が一言。

「今度、バージのクロックウォッチが入るかも。。」
「んぐっ、んぐっ。。ヴァ・・ヴァージのクロックウォッチすか??」

そう、古時計マニアのあこがれ,リピーターマニアの終着駅,複雑時計のこれで上がりじゃぁ、と言われるクロックウォッチです。
しかも、涙々の200年超バージ物です。

「ま、まじすかぁ。ほしいっす!!!でも、高いすよね。。。」
「んーと、まだ交渉中だし入るか決定ではないけど、こんくらいかな・・」
「う、う、貯金おろします。朝飯も抜きます。他のお店に浮気はしません。仕入れてください! 絶対すよ! 絶対すよ! 絶対すよ・・・・・」

さて、ここからが一筋縄ではいかないのだ。(^^;

ああでもないこうでもない、まだ交渉がまとまらないのよ。
と言われ続けながらも、お店に週末参する日が続いたある日のこと、

「実はちょっと困ったことが。。。。」
「えっ、何が起きたので・・」
「持ち主が先日、天真折っちゃったらしくて修理に出したから返って来るまで待って欲しいと言ってるんですよ。でもバージの天真修理は大変だからしばらくかかるかも。」
「うう、なぁに、いいえ待ちますとも、待ちますとも・・・」

そしてそろそろ、つくしんぼが顔を出す季節がやってきました。

「おまたせ!やっと話がまとまりましたよ。やばかったですよ。危機一髪セーフ! で.も.ね。。。」
「やったぁ!!! で、何が???」
「じ、実は修理先の職人さんが 気にいっちゃって是非譲れという話がでてきてたらしいんですよ。あわてて、こっちが先だから壊れたままでいいから送ってくれぃ。という訳なんです。」
「うう、それは喜んでよいやら悲しんでよいやら。」
「ま、なんとかなるでしょう。わははは。」
「わははは」

さて、そんなこんなで春の訪れと貯金残高の目減りと共に、かくして我が元にNortonさんはやってきたのでした。

まだまだ、続きますよぉ。(^^;

さて、はるばるアメリカからやってきたイギリス生まれのノートンさん。
簡単に紹介させていただきますと。

・バージ脱進機
・銀無垢透かし彫りケース
・プチソネリ+アワーリピータ
・ベル式
・外ケースがなくなっており、替わりにこの時計用にあつらえたと思われる梨型のスタンドにもなる携帯木製ケース付属。
ハーフハンターになってます。

天真は折れてますが、何はともあれリピーターを作動させると「チーン・・・」 とベル式リピーター特有の余韻を持った大きな音が鳴ります。 まことに、快感であります・・・・

さて、天真をどうしてくれようか。
あらゆるコネを使ってどうしたもんか相談してみました。
結論は、天真作りはあきらめよう〜。ちゃんちゃん。
そこで、苦肉の策、古時計マニアの英知を結集して やりましたともなんとかしましたとも。(人頼み人頼み)
天真が近代の時計より多少なりとも太いからこそできた荒技ですが、なんと超ミニ型の画鋲もどきを作りホゾの折れたところに、瞬間接着剤でよっしゃ! 奇跡的に1発で位置決めもきまり日差数分にまで落ち着かせることができたのです。
しかし、もうひとつ悪い個所があったのです。それは、ぜんまい巻上げの機構の逆回転防止のラチェットが痛んでおり鍵でぜんまいを巻くと、時々スリップしてわやくちゃになるのです。
でも動くようになったことだし、まずはひと休みひと休みで半年が経過し、ようやくつい先日念願の修復完了とあいなりました。
これで、私もオーナーとしてホッとしました。
次世代、次次世代へ残したい時計を自分の元で修復することができたのです。
(正確にはしてもらったんですけどね。(笑))

長い間、おつきあいいただきありがとうございました。
最後に、この時計を持ち歩くとどうなるかについて考察させていただいて稿を締めたいと思います。
本当に起きたこともありますし、これから起きるに違いないと思っていることもあります。
すでに起きていることが何かは、皆様のご想像におまかせいたします。

・とある、デパートでエレベータ待ちをしておりました。
そこに30分のベルが、 「チーン・・・」まだ来ぬエレベータに周りの人が首をひねっておりました。

・横断歩道で信号待ちをしておりました。
そこに正時のベルが、 「チーン・・チーン・・チーン」前にいた人が、あわてて振り向いて脇へよけようとしましたが自転車はおらず、きょとん????

・お昼時に高級レストランでメニューを見ておりました。
そこに正時のベルが、 「チーン・・チーン・・・」あわててボーイさんが注文を取りに来たのですが、まだ、考えてるんだっちゅーの。

・知り合いで不幸があり、お焼香をしようとしたところ、
そこに正時のベルが、 「チーン・・チーン・・チーン・・」
おーい、そんなにたくさんなるんじゃねぇよぉ。。。(;;)

それでは、 一本締め! お手を拝借。 よぉーーー。

「チーン・・・・・」

おあとがよろしいようで。。。。(^^;

===少し補足させてください。

本文では、天真の修復方法について簡単にしか触れていませんが、実は直していただいた方の話によると、こんなに大変だったのだそうです。深く感謝する次第です。m(--)m

ちなみに、この修理方法はその筋で著名なドナルド・カールさんという方の本に紹介されている方法をヒントにされたそうです。(洋書です)

1.
折れたトップピボットを根元から削り落とし、直径1.5ミリで深さ0.5ミリくらいの穴を空ける。
この穴で芯をだすのでこの作業は旋盤でかなり慎重にやってます。

2.
次にこの穴にぴったりのサイズでトップピボット(超ミニ画鋲)をつくります。
下の円盤の径が1.5ミリ、肩の部分にアールをつけてピボットの太さは0.15ミリくらいです。
一応バニッシャーを掛けて表面硬度を高くしてます。

3.
この時点で穴にピボットをはめて組むとちゃんと動作しますし、強く引っ張らなければ抜けないんですが、分解時などなにかのはずみで外れてしまうと捜索が困難なので瞬間接着剤で止めてる
だけです。(本当はカシメた方が確実ですが壊すおそれがあるので瞬間接着剤にしました)

by ふる


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