機械時計の動力源<ゼンマイ>
動力の伝達部分 <輪列>
輪列からエスケープへ
<ガンギ車とアンクルのかみ合い>
時計の心臓部 <テンプ>
時計の緩急
エヤリーの定理について
トゥールビヨン脱進機について
   
   

















 

トゥールビヨン脱進機

1個1000万円以上もするような時計は、どういう理由でそんなに高い値段がつくのでしょう?
超高級時計といわれるものには、大体3つの特徴があります。

1 永久カレンダー機構
(4年に一度の閏年も機械的にプログラムされている)

2 トゥールビヨン機構
 (エスケープが回転する)

3 ミニッツリピーター機構
 (音によって現在時刻を知らせる

この3つの特徴のうちのどれか、あるいは全部を組み込んでいる時計は、製品になった瞬間から超高級時計として扱われます。
腕時計でありながら外車一台分、ときには家一件分の価格をつけ、世間の羨望と尊敬と好奇の眼差しを受けることになるのです。

今回はこのトゥールビヨンについて考えてみましょう。

1795年にブレゲが発明したトゥールビヨン(tourbillon)は、一言で言うと特殊なエスケープメント(ガンギ・アンクル・テンプ)のことです。
「ツールビロン」「タービロン」などと呼ぶ人もいます。

トゥールビヨンの動作は非常にユニークです。
簡単に言うと、ガンギ・アンクル・テンプの1セットが回転するのです。

これはその昔(1700年台後半)、現在のように設備の整った時計生産技術がなかった頃、人間の感覚によって作り出されたパーツの誤差に苦しみながら、なんとかして時計の姿勢差を克服したいという願いによって考案された機構なのです。

姿勢差、
もうご存知ですね。(ご存知ない方は時計の緩急姿勢差と等時性をご覧ください)
時計の姿勢が変わることによって等時性が変化することです。
トゥールビヨンは、コロンブスの卵的な発想によって見事に姿勢差(縦姿勢のみ)を克服しています。

通常の時計の輪列は、3番車の次に4番車が位置しています。
また通常、4番車は1分間に1回転しています。
この4番車の回転がガンギ車に伝わり、そしてガンギ車→アンクル→テンプと力が伝わっているのですが、トゥールビヨンの場合、4番車が特に変わっています。
1分間に1回転している4番車の上に台のようなものが取付けられてあり、その上にガンギ車とアンクルとテンプ一式が取付けてあるのです。



そのために、エスケープメント自体が1分間に1回転することになり、垂直方向の姿勢差(縦姿勢)はまんべんなく生じることになり、それぞれ打ち消し合うようになるのです。
つまり、天輪の方重りなどで縦姿勢の姿勢差が生じていても、エスケープ自体が1分間に1回転しているので、誤差が分散されるのです。

※注 トゥールビヨンの中には回転のもっと遅いものもあります


詳しく見てみましょう。
以下はトゥールビヨン脱進機を組み込んであるムーブメントのイメージ図です。
(見やすくするためにアンクルは表記していません)

3番車まで伝わってきた回転力は4番車のかなに達します。
しかし、4番車の歯車部分(かさのような部分)は地板に固定されていて回転しません。
中心の軸だけが回転するようになっているのです。
したがって、3番車から伝わってきた力は、4番かなを含む中心軸だけを回転させます。
この中心軸の上の方の部分(4番歯車より上の部分)には、籠(かご)のような台がついています。
この籠の中にはガンギ・アンクル・テンプがセットされています。
したがって、4番車の中心軸が回ると、4番歯車は回らず、籠とその中にセットされているエスケープメント(ガンギ・アンクル・テンプ)が回転するようになっているのです。

ご理解いただけますでしょうか?
もし、難解と思われるようでしたら、もう一度、「車」「歯車」「軸」「かな」意味をご確認した上で読み返してみてください。

さて、4番車からガンギへどのように回転力が伝わるか見てみましょう。
ガンギかなは籠から少し下に飛び出すようにセットしてあり、4番歯車(固定されている)にかみ合っています。

3番車の回転力は4番車の中心軸に伝わり、軸の上部に取付けられている籠を回転させます。
籠の回転と共にガンギ車も籠と一緒に大きな回転を始めるのですが、ガンギかなは固定された4番歯車にかみ合っているので、大きな籠の回転と共にガンギ車自体が回転します。
そして、ガンギ車自体の回転はアンクルに伝わり、テンプを振幅させるのです。

以上がトゥールビヨンの動作原理です。

トゥールビヨンを作る上での難しさは、まず、籠を含むパーツ自体を軽く丈夫にすることです。
パーツが重いと、エスケープを収納している籠が回るにつけて、著しい摩耗や圧力を生み出すことになります。
また、パーツが弱いと、たわみが生じて通常時計のエスケープ以上に歩度に影響を及ぼします。
さらに、トゥールビヨンは、調整が非常に難しい構造をしています。
エスケープの土台が回転するので、通常時計に比べて微妙な調整技術を必要とし、最高級の時計職人でなければその保時性のよさを引き出すことができません。

永久カレンダーやミニッツリピーターは、従来からの時計の構造に後から特殊構造を付加するものですが、トゥールビヨンはエスケープメントの構造自体を変えています。
この点からトゥールビヨンは、抜本的に通常の時計と趣を異にしているといえるでしょう。

 



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