ストップウォッチの思い出
”MIJもいいじゃない”
”お薦め一品” 
”貴方はアポロ派、それともファ−スト派?” 
”ユリスナルダン,GMT” 
”ワインディングボックスって、どうなの?”
As time goes by. 〜あなたと過ごした時間〜 (カフェテリア・カビノチェMINIさんより)
作品集
可憐な時計
時計ジャーナリストの休日
ミッキーマウスレベルソ
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ナースの愛用品
実用時計あれこれ
褐色時計の撮影とカメラ
時計は語る
角型時計の美学
一枚の写真
パラドックス ー 好きな時計を身につけた時
時計が似合う
時計のある風景 ー ティソ(Tissot)編
「時計の唄」(カフェテリア・カビノチェ、GP7000さんより)
ストップウォッチの思い出
角型時計を探して
パテック・フィリップについて
ロレックス・デイトナについて
   
   
   







 


みなさんは、どうして機械時計が好きになったのですか?

わたしの場合好きになったきっかけは、今思い出すとそう、幼稚園〜小学低学年の頃に遡ります。
幼い頃は大人の人が持っているものなら何でも興味が出てくるものですね。

カメラや時計などの精密機械は当時(1960年代後半〜70年代初頭)はまだまだ貴重品で、気軽に子供のおもちゃにはさせてくれない雰囲気がありました。
他のものを見つけて遊んでいても何も言わない大人が、精密機械で遊んでいると「ダメよ」と言って取り上げてしまうのです。

わたしの場合、「操作するもの(手で動かすもの)」に特に惹きつけられました。

カメラはもちろんのこと、オルゴールのゼンマイ、ラジオのチューニングノブ、テレビのチャンネル、切符販売機のボタン、横断歩道に設置されているボタン、変わったところでは編物をやる人などが使う数を数える器械(数取り器)にも心惹かれました。

そんな中で、幼いわたしの心を最も揺さぶったのは、先生が運動会などでカチャカチャと操作している銀色の物体、そう、ストップウォッチだったのです。
今考えると、われながら「どうしてそんなものを・・・」と思うのですが、なぜか当時はストップウォッチが欲しくて欲しくてしょうがなかったのです。

しかし、先述のごとく、本格的な機械式ストップウォッチはまだまだ高価な品物で、子供のおもちゃにするにはあまりにも不適切なものでした。
あまり欲しがるものだから、おばあちゃんも不憫に思ったのか、あるいは見るに見かねたのか、わたしを近所の「ハトヤ」というおもちゃやに連れて行って、おもちゃのストップウォッチを買ってくれました。

そのおもちゃはそれなりに欲求を満たしてくれ、しばらくの間は「ストップウォッチ欲しい病」から開放されました。

しかし、赤いプラスチックでできたそれは「耐久性」という文字には程遠い出来で、数回の使用で壊れるし、文字盤に仮面ライダーの絵が描かれていたりして、子供ながらに、「本物と違うなぁ」と感じさせたものでした。

そろばんを習うようになると、そろばんの先生がストップウォッチをこよなく愛用していて、いつも読み上げ算のときに「ジリッジリッ」と金属的な音を響かせながらリュ−ズを廻し、「カチャッ」と、これまた手応えありそうな感じのスタートボタンを押します。
すっぽりと手に収まった銀色ケースはきっと、ひんやりと心地よい感触を伝えていることでしょう。

「う〜ん、欲しい」 「どうしても欲しい」 わたしの思い詰めは、頂点に達するのでした。
母親に何度も何度も頼み込んで、ついに母親も「じゃあ、時計屋さんに見に行きましょう」と言ってくれました。

忘れもしません、ついにわたしは近所の「さかい時計店」に母に連れられて念願のストップウォッチを買いに行ったのです。

ガラスの扉を開けて薄暗い店に入ると、母は、「すみません、ちょっとストップウォッチを見せてください」と言いました。
母も行きなれない時計屋に入って、なんとなくそわそわしている様子でした。

店主は無愛想なおじさんで、面倒くさそうにショーケースからストップウォッチを取り出して見せてくれました。
「おいくらですか?」と母が聞くと、「1万2千円です」と、これまたぶっきらぼうに応えます。 この金額は、やはり、子供のおもちゃに買い与えるのには高すぎたのです。
母はその場で、「こんなに高いのは買えないね」と、わたしにやさしく、しかしきっぱりと言いました。

わたしは目の前にある憧れの品を、ここまで来て手に入れられない悲しさと、店主の様子が随分と怖かったということで、泣きべそをかきながら店を出たのでした。
それから何年もわたしは本物のストップウォッチを手に入れることはできませんでした。

人生不思議なものですね。
この出来事が結果的にわたしに大きな影響を与えました。

ストップウォッチがきっかけとなって、以来、わたしは機械式時計全般に惹きつけられるようになり、それについて調べ、思いを致し、仕事に選び、現在に至っています。

現在は幼い頃の敵討ちとばかりに機械式ストップウォッチを何個も所有しています。
やっと手に入れることのできたストップウォッチ・・・。
手で弄んでボタンを押したり眺めたりしていると、これが欲しくて毎日寝床で「手に入りますように」とお祈りしていた幼い頃の自分、欲しがる子供に買ってやりたくても買えなかった母の困ったような表情などが思い出され、なんとなく熱いものがこみ上げてくるのです。



※ストップウォッチについては以下のページもご覧ください。

http://www.dac-inc.co.jp/~watch/siryo/tokusen/7.htm



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